- 7月
- 31
- 2007
14:01
第8話 泰造の郷里
陽光の下、田園を走る一台のバス。
周一を抱いた雅代は泰造と共にバスに揺られていた。
目的地である北里村をへんぴなところだと淋しそうに言う泰造。
実際、この村でバスを降りたのも雅代たちだけだった。
自分の生まれ故郷である北里村を見下ろしながら泰造は自分の生い立ちを語った。
北里村の貧乏な百姓の家に生まれた泰造は家族を養うために尋常高等小学校を出てすぐに働きだした。
県の土木工事の仕事に就き、その仕事に熱中した泰造は十五歳の時に一念発起して東京に出てきた。
しかし、建築関係の夜学を卒業すると同時に”赤紙”が来て戦争にかり出された。
満州で結核を患い除隊されたために太平洋戦争には行けなかった。
泰造は死んでいった戦友に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになり、その分御国にできることを精一杯やろうと建築事務所を興した。
順調に仕事を続ける泰造は大口の取引先の紹介で見合い結婚をした。
長男が生まれたが病死。その後、真知子という一人娘に恵まれた。
娘が生まれた翌年、戦争が終わった。
敗戦国になりアメリカに占領されたが、もう殺し合わなくてすむという安堵感を心底感じた。
東京は焼け野原になったが、奇跡的に泰造の会社は残っていた。これを天からの使命だと感じた泰造は国の復興に努めるべく仕事に没頭した。
そしてある日、知り合いの政治家から国政選挙に出てみないかと持ちかけられたのだ。
雅代は自分の反省を語る泰造の言葉に一生懸命耳を傾けていた。
(ひとこと)うーん、一人娘の真知子さんというと・・・あの方でしょうかね。
