最終話 家族
アメリカ政府と民力党守旧派による杉野総理失脚の陰謀は彩香、明日香母子の力で阻止された。
UCF問題も高柳の逮捕で沈静化し、杉野総理は親アジア、脱アメリカ政治に向かって歩んでいくことになる。
裏の世界では杉野の活躍が「女帝母子」の支えによるものだとささやかれるようになっていた。
やがて二人は生ける伝説となった。
その伝説の芸妓、明日香は例の事件の後、燃え尽きたように無気力になっていた。
座敷には出ているが、以前のような張りがない。女紅場学園の稽古もずっと休んでいる。
そこに歌舞伎役者の沢村勘助から電話が入る。師匠の吾妻征四郎が危篤だというのだ。
病院に駆けつけた明日香を吾妻の妻と娘が迎え入れてくれた。
病床の吾妻は明日香に語りかける。
「お前とは色々あったなあ・・・迷惑ばかりかけてしもてすまなかった。女帝のお前の話は聞いとる。ほんまに大きゅうなった。けど空しゅうないか?ワシも頑張った甲斐あって人間国宝にもなれた。けどな・・・病気で倒れてみてわかった。一番大事なもの、大切なものはそんな肩書きや称号やない・・・と」
吾妻は静かに言葉を続ける
「それは家族だよ。放蕩三昧したワシをこないに温かく面倒見てくれる。家族は良えぞ、明日香。もう肩肘張らんと素直になって、結婚して、子供作って、お母はんと一緒に暮らしたほうが良えんと違うか」
最後に吾妻は「長い間おおきに」と言葉を閉じた。
征四郎が逝ったのはその夜だった。
それから三日間、明日香は吾妻の言葉について考えついに結論を出した。
明日香は康平を呼び出し恥ずかしげに告げる「ウチ、芸妓辞めてあんたの奥さんになる。なりたいんや。奥さんにしてくれる?」
笑顔と泣き顔の混じったような表情で絶叫する康平。高校以来の想いがついに叶った日であった。
その日の夕方、銀座では彩香とリエがカウンターで話していた。
「もうバァさんだよ。もう引退しよう。二人で銀座上がって伊豆の”たちばな”に行こう」というリエ。
彩香もそれに賛同し、引退について考える。そこへ明日香からの電話が入った。
「ウチ、康平と結婚する。それで二人で店をやりたいと思う。だから芸妓を辞める。ママにもお店を辞めて来てほしい。もちろん、リエさんも一緒に」
笑顔で承諾する彩香。横で聞いていたリエは顔を背け一人感謝の涙を流す。
そして二年後。
その店は祇園の片隅にひっそりと在った・・・
古くからの祇園の人間は皆知っている
その店の女将はかつて祇園の女帝と言われた女性だったということを
その店の奥で生後一年の赤ちゃんをあやしているのはかつて銀座の女帝といわれた女性だということを
だがそれも長い年月が過ぎるうちに忘れ去られ平凡な一人の女として日々生きていくことになるだろう。
「割烹おおしま」の女将明日香。その母、彩香。
薄幸な境遇から身を起こし数奇な運命を生き、女帝と呼ばれた女が
人生の最後にたどり着いた場所は「家族」という名の幸福だった。
(ひとこと)今回は文章のほとんどを原作から取ってしまいました。
まさか彩香まで引退するとは。まあなにはともあれ、めでたし、めでたし。